AIインフラとアタックサーフェスの進化
多くの組織が生成AIを実運用環境に導入するなかで、企業のクラウド環境内に新たなインフラのレイヤーが出現しています。それはAIゲートウェイです。AIゲートウェイはユーザー、アプリケーション、基盤モデルの間に位置し、多くの場合クラウドの特権アクセスを保持し、さまざまなAIサービスへのアクセスを大規模に管理しています。
AIゲートウェイとは?
AIゲートウェイはユーザー、アプリケーション、基盤モデルの間に位置し、多くの場合クラウドの特権アクセスを保持し、さまざまなAIサービスへのアクセスを大規模に管理しています。
こうした役割から、AIゲートウェイは企業のアタックサーフェスのますます重要な一部になりつつあります。AIゲートウェイが侵害されれば、攻撃者に対して計算リソースへのアクセスだけでなく、クラウドアイデンティティ、モデルサービス、機密性の高いプロンプト、そして他の接続されたシステムへのアクセスも提供してしまいます。
このブログでは、Amazon Bedrock サービスに接続されたAIゲートウェイが侵害され、その後暗号通貨マイニングインフラとの通信が観測された事例をダークトレースがどのように調査したかを解説します。問題のインスタンスは、その構成、ならびに関連するIAM(Identity and Access Management)ロールから、Amazon BedrockでホスティングされるAIサービスへのゲートウェイとして機能していることがわかりました。疑わしい侵害アクティビティが発生した後、このホストは既知の暗号通貨マイニングインフラに繰り返し通信を行い、その後シャットダウンされた様子が観測されました。Darktrace はこのアクティビティを検知し、Enhanced MonitoringおよびManaged Threat Detectionサービスを通じてエスカレーションを行いました。
この事例では最終的影響は不正な暗号通貨マイニングでしたが、このインシデントが注目に値するのはその発生場所です。侵害されたアセットは、クラウドインフラ、アイデンティティ、各種AIサービスの交差する場所に位置していました。最近の調査では、LiteLLM等のAIゲートウェイが、認証情報、モデルへのアクセス、クラウド権限を中央管理するその能力から、攻撃者にとって魅力的な標的となる可能性が明らかになっています。このアクティビティと公開されているLiteLLM脆弱性を直接結びつける証拠は見つかっていませんが、このインシデントは、AIインフラを個別のアプリケーション層として見るのではなく、重要なアタックサーフェスの一部として扱う必要性があることを表しています[1]。
暗号通貨マイニングがクラウド侵害後のアクティビティとしてよく見られる背景
暗号通貨マイニングはクラウド環境において、侵害後のアクティビティとして収益性の高いものとなり得ます。クラウド資産にアクセスできるようになった後、攻撃者はマイニングソフトウェアを展開して被害者の計算リソースを悪用し金銭的利益を得ることができます。この種のアクティビティは多くの場合機会主義的なものであり、露出したサービス、弱い認証情報、漏洩したアクセスキー、脆弱なアプリケーション、あるいはクラウドワークロードの設定ミスなどを標的として実行されます。
典型的なクラウド上での暗号通貨マイニング侵入には次のようなアクティビティが含まれます:
- 露出したあるいは脆弱なクラウドインフラの特定
- 露出したサービス、認証情報、またはアプリケーションの脆弱性を通じたアクセスの獲得
- マイニングソフトウェアのダウンロードおよび実行
- マイニングプールインフラへのアウトバウンド接続を繰り返し確立
- アクティビティが検知され停止されるまで継続して計算リソースを消費
この事例において注目すべき要素は暗号通貨マイニングだけではありません。それが発生した場所が、AI関連アクティビティをサポートするクラウドインフラ上だったことです。この事例は、AIサービスを実現するためのアセットも、よくあるクラウド侵害リスクにさらされる可能性があることを示しています。
Amazon Bedrockに接続されたAIゲートウェイの侵害を調査
2026年6月12日、DarktraceはLiteLLM-Proxyという名前のAmazon Web Service (AWS) EC2インスタンスから暗号通貨マイニング発生中とみられるアクティビティを観測しました。このインスタンスはLiteLLMアクティビティをサポートしており、Amazon Bedrockリソースへのアクセス権を有するインスタンスプロファイルと関連付けられていました。
AIゲートウェイは大規模言語モデルへのアクセスを中央管理するよう設計されており、多くの場合AIアプリケーションに対する認証、ルーティング、ログ、ポリシー適用を扱っています。セキュリティの視点から見ると、クラウド権限、モデルアクセス、アプリケーションワークフローを単一の制御ポイントに集約する役割も果たしています。その結果、AIゲートウェイの侵害は、侵害されたホストだけにとどまらない影響を及ぼす可能性があります。
確定的な初期アクセスベクトルは確認できませんでしたが、このアクティビティはインターネットに接続されているシステムの侵害でよく見られる次のような順序に従っていました。ブルートフォースアクセス、ペイロードの投下、そしてマイニングプールインフラに対する繰り返しのアウトバウンド接続です。
ステージ1: インターネットに露出したSSHからの初期アクセス
暗号通貨マイニングアクティビティが観測される前、LiteLLM-Proxy EC2インスタンスはSSH(ポート22)が0.0.0.0/0に対して開かれ、外部に公開されていました。

暗号通貨マイニングアクティビティに先立って、Darktraceはこのインスタンスに対する大量のインバウンド接続の試みが外部IPアドレス(主に145.241.123[.]102)からポート22に対して行われていることを観測しました。これはブルートフォースアクティビティを示唆するものです [2]。これらの接続の多くは短命であり、数秒しか続いておらず、スキャニングまたはログインの失敗を示していました。

入手できたテレメトリーではこれらのインバウンドSSH接続のいずれかが認証の成功につながったかどうかの確認に至らず、このアクティビティが初期アクセスベクトルであると断定することはできませんでした。しかしながら、SSHの露出、外部IPアドレスからのインバウンド接続、それに続くマイニングアクティビティは、SSHがアクセス経路の可能性が高いことを示唆しています。
ステージ2: AIゲートウェイへのXMRigマルウェアのダウンロード
最初に観測されたマイニングプールへの接続の後、このEC2インスタンスは3.42 MBのデータをポート80上のHTTP接続を介して外部エンドポイント185.62.1[.]8にダウンロードしました。このエンドポイントは暗号通貨マイニングマルウェアXMRigを含むZIPファイルをホスティングしていました[3][4]。ホストレベルのログは入手できなかったため、ダークトレースはマイニングツールがどのように実行されたか、あるいは前のSSHアクティビティがペイロード投下を直接的に可能にしたかどうかを確認できませんでした。しかしながら、ダウンロードのタイミングとその後ほどなくマイニングプールへの接続が繰り返されたことは、このインスタンスが侵害されて不正な計算アクティビティに使われたという評価を裏付けています。
ステージ3 – 侵害されたAIゲートウェイが暗号通貨マイニングインフラと通信
わずか数分後、DarktraceはLiteLLM-ProxyEC2インスタンスがHTTPs(ポート443)でホスト名pool.hasvault[.]proに対して接続していることを確認しました。最初の接続の後、同じホスト名に対して繰り返しアウトバウンド接続が観測されました。これは、侵害されたホストがマイニングインフラと通信しワークを受け取り、結果を送信するという、暗号通貨マイニングプールとの通信のパターンと一致しています。
このアクティビティがDarktraceのEnhanced Monitoringモデル“Compromise / HighPriority Crypto Currency Mining”をトリガーし、ダークトレースのSOCにより顧客に対してエスカレーションされました。また、このアクティビティはCyber AI Analystによって分析され、関連するイベントが1つの調査ナラティブにまとめられました。これにより、影響を受けたクラウドアセットからマニングプールへの繰り返しの接続を特定することができました。

ポート443上のHTTPSの使用にも注目すべきです。なぜならば、単独で見れば、このトラフィックそのものは疑わしく見えないかもしれないからです。しかしこのケースでは、接続先、接続の量、そして類似のアクティビティが他にないことなどが、この通信を疑わしいものとして特定するのに必要な、動作のコンテキストを提供することになりました。
ステージ4: Managed Threat Detectionサービスによるリソース乱用の特定
暗号通貨マイニングアクティビティがダークトレースのManaged Threat Detectionサービスにより検知され、ダークトレースのSOCによりレビューされました。レビューの結果、このアクティビティは顧客向けにエスカレーションされました。このエスカレーションにより、顧客はAWS環境で現在発生中のリソースの乱用について、タイムリーな通知を受けることができました。
ステージ5: クラウド認証情報の不正使用とみられる疑わしいIAMアクティビティ
これとは別に、6月13日、Darktraceは別のIAMユーザーから発生した疑わしいアクティビティを検知しました。

まず、このユーザーは “GetSendQuota”イベントを試行している様子が見られました。このアクションは少なくとも過去3か月間にこのアカウントによって実行されたことのないアクションです。また、このコマンドのソースIPアドレスは14.176.1[.]47でした。地理位置情報はベトナムであり、このユーザーのアクティビティがAmazon IPアドレスから最も多く見られた場所です。さらに、このアクティビティに対してAWS CLIが使用されており、これもこのユーザーにとって通常とは異なる振る舞いでした。このことは、Darktraceの“IaaS / Unusual Activity / UnusualAWS CLI Activity”モデルによって検知されました。

このIAMユーザーからは、長期アクセスキーを使った疑わしいアクティビティがさらに観測されました。中でも、“InvokeModel” および “ListFoundationModels”コマンドの失敗が検知されており、モデル列挙や起動などAmazon Bedrockサービスとのやり取りを試行したことがわかります。これは前日観測されたLiteLLM侵害への関連を思わせますが、2つのイベントを確定的に結びつける証拠は不十分でした。
“CreateUser”コマンドの試行も注目に値します。なぜなら要求されたユーザー名は意味が薄いものであり、新しいアカウントを作成することにより永続性を確立する試みと見られるからです。このアクティビティはDarktraceのモデル“IaaS / Admin / New AWS UserAccount Creation”をトリガーしました。

2つのインシデント間に結びつきは確認できなかったものの、このIAMアクティビティには重要な意味があります。これは、クラウド侵害の調査においてワークロードのテレメトリーとコントロールプレーンのテレメトリーの両方を取り入れることの重要性を表しています。EC2暗号通貨マイニングアクティビティが計算リソースの乱用を示す一方、IAMアクティビティは認証情報の侵害や長期アクセスキーの不正使用、そしてクラウトサービスの不正使用の可能性を示唆しているからです。
AIインフラ保護のための重要な教訓
このインシデントの重大性は暗号通貨マイニングアクティビティそのものではなく、それが発生した場所にあります。侵害されたシステムはAmazon Bedrockサービスへのアクセス権を持つAIゲートウェイとして機能し、クラウドインフラ、アイデンティティ、そしてさまざまなAIオペレーションの交差する場所に位置していました。組織がAI機能を実運用環境に導入していくなかで、これらのプラットフォームは、露出したサービス、認証情報窃取、クラウドの設定ミスなどを通じて攻撃者がすでに狙っているアタックサーフェスの一部となりつつあるのです。
このケースでは詳細な侵入経路は特定されておらず、ワークロードの侵害と調査中に検知された疑わしいIAMアクティビティの間に決定的なつながりは確認されませんでしたが、これらのイベントは全体的な現状を裏付けています。つまり、AIインフラは個別のテクノロジースタックとして扱うのではなく、クラウド環境全体の一部として保護しなければならないとうことです。
このケースでは、最も目立った侵害の兆候は暗号通貨マイニングインフラとの通信でした。しかしここで得られたより重要な教訓は、このインシデントの全貌が理解される前にDarktraceのビヘイビア分析により明らかになった、高い権限を持つAI関連アセットを取り巻くリスクです。AIゲートウェイによりクラウド権限、モデルアクセス、アプリケーションワークフローがますます集約されるなかで、防御者は個別のアラートに集中するよりも、ワークロード、アイデンティティ、サービスの間でどのように動作がつながっているかを理解することに重点を置く必要があるでしょう。
協力:Angel Arribas Lopez (Associate Principal Cyber Analyst)、Nathaniel Jones (Field CISO/VP Threat Research)、Emma Foulger (Global Threat Ops)、Mark Turner(Security Researcher)
編集:Ryan Traill (Content Manager)
付録
Darktraceによるモデル検知結果
· Compromise / High Priority Crypto Currency Mining
· Compromise / Monero Mining
· Device / Internet Facing Device with High Priority Alert
· IaaS / Unusual Activity / Unusual AWS CLI Activity
· IaaS / Admin / New AWS User Account Creation
MITRE ATT&CK マッピング
初期アクセス – 外部リモートサービス – T1133
初期アクセス – 有効なアカウント – T1078
実行 – コマンドおよびスクリプトインタプリタ – T1059
永続化 – アカウント作成 – T1136
探索 – クラウドサービス探索 – T1526
影響 – リソースハイジャッキング– T1496
参考資料
[1] https://docs.litellm.ai/blog/security-update-march-2026
[2] https://www.abuseipdb.com/check/145.241.123.102









